原油・ドル体制の危機   文科系

 トランプの対中高関税設定は、進みつつある中国大国化への歯止めだという説がある。他方、イラン核合意離脱・「イラン取引国には制裁」という米政策は、原油価格釣り上げによる外貨稼ぎ兼シェールガスの採算化狙いという説がある。ところで、この中国製品関税とイラン制裁が、世界の政経枠組みを大きく動かすような結果を生み始めているようだ。

 一つには、イラン石油輸出はほとんど止まらないようだ。日産250万バレルの輸出内訳がこうだから。中国65万バレル、インド50万バレル、以下、韓国313,000,トルコ165,000などとある。それどころか、この機会にアメリカの世界石油戦略を、中ロが手を取り合って突き崩し始めた。この3月に中国が元による石油先物契約を開始している。先物契約は最も主要な石油市場であって、そこにドル以外の通貨支払いが起こったというのは、史上初の出来事である。ロシアも、中国と同じ動きを始めるようだ。

 つまり、イラン制裁が、金融と並ぶアメリカ最大の外貨稼ぎ手段、石油・ドル体制を、突き崩し始めた。フランスのトタル社のイラン投資株を中国が引き取るという話も出てきた。制裁を恐れてイラン撤退が噂されていたEU最大のイラン石油取引会社である。そして何よりも、中ロが並びあってイランに急接近している。
 中国はこの5月、内モンゴルカザフスタントルクメニスタン—イランのテヘランという直通の鉄道便を開始した。船便だと20日かかる所を、14日に短縮出来るということである。ロシアは17年11月から、イランとの貿易にドルを使わなくしつつある。

 さて、アメリカは国家累積赤字が実質、GDPの4倍という国。そのドルは、世界通貨という信用だけでかろうじて現価格を保たれている。イラン制裁をものともせず、その世界埋蔵量4位を誇る原油がどんどん輸出されるだけではなく、この支払いが石油・ドル体制を崩していくとしたら、そもそもドルはどうなるのかという話になってくる。埋蔵量世界1のベネズエラにも中国が手を出している事だし、現在アメリカに従っているように見えるEUも、その姿勢を変えるかも知れないのである。中ロが手を取り合ってイランやベネズエラの石油開発を始めたら、アメリカのシェールガス販売の採算点などもろくも崩れ去ってしまうだろう。アメリカは今、ドイツ・メルケルの追い落としに躍起になっているにちがいない。この中ロ路線に乗り換えそうな人物である。イラク戦争リーマンショックギリシャ問題、イギリス離脱問題など、EUもさんざんアメリカに振り回され、悩まされてきた。


 こんな情勢からなのかどうか、安倍もアメリカべったりとは行かなくなったようだ。イラン核合意からは離脱しないと改めて言明し直し、中国主席には急に首脳会談の求愛を始めた。ロシアとの原油共同開発もさらに進めるだろうし、一時大音声していた「北への制裁強化」という高飛車な声もすっかり聞かれなくなっている。WTOさえ無視し始めた狂気のようなアメリカについて行くだけでは何が起こるか分からないと、やっと思い知り始めたのだろう。


(なお、このエントリー内容、資料は F. William Engdahlというアメリカ人の論文から採った。彼は、「プリンストン大学の学位を持っており、石油と地政学に関するベストセラー本の著書。オンライン誌“New Eastern Outlook”への独占寄稿」という人物である。)